専門家がブリュッセルに集まり、宗教弾圧と1年前に行われたバチカンと中国間の合意の影響に関する討論が行われた。
マルコ・レスピンティ(Marco Respinti)
中国でカトリック教会に起きている出来事は非常に重要であり、カトリック教徒ではない者、そして、欧州議会をはじめとする宗教とは無関係の機関も注目している。
9月25日、JAN 6Q1号室で専門家会議「Ecclesia Catholica in China」が行われた。この部屋では、2019年1月31日に同じく専門家会議「中国での信教の自由」が行われていた。今回のセミナーの議題には(かつての)カトリックの言語であるラテン語が用いられ、これは「中国におけるカトリック教会」を意味するものである。中国におけるカトリック教会の存在に関する討論を行う上で、うってつけの名称であった。「中国におけるカトリック教会」は「中国のカトリック教会」とは大幅に異なる。なぜなら、中国のカトリック教会は、「中国化」された政府の管理下にあるカトリック教会を示唆するために 中国共産党 が使用する表現であるためだ。
2名の欧州議会議員、欧州人民党のチェコの代表団の副総裁を務めるミカエラ・ショイドロヴァ(Michaela Šojdrová)議員と欧州保守改革グループ(European Conservative and Reformists Group)のベルト-ヤン・ルイッセン(Bert-Jan Ruissen)議員(オランダ)がこのイベントを主催した。この会議では次の4名の専門家が講演を行った — プラハのカレル大学の蒋経国国際漢学中心で所長を務めるオルガ・ロモヴァ(Olga Lomová)教授、クリスチャン・ソリダリティ・ワールドワイド(Christian Solidarity Worldwide)を設立し、事務総長を務めるメルビン・トーマス(Mervyn Thomas)氏、Bitter Winterの担当理事を務める本稿の著者(マルコ・レスピンティ)、欧州連合のオープン・ドアーズ・インターナショナル(Open Doors International)のアドボカシ―オフィサーを務めるアンナ・ヒル(Anna Hill)氏。
プロテスタント派のキリスト教徒であるベルト-ヤン・ルイッセン議員は会議の冒頭で中国では全ての宗教が弾圧を受けていると力説した。プロテスタント系の 家庭教会 の苦境を説明するため、同議員は自ら発見した特に憂慮すべきニュースに言及していた。それは、河南省洛陽市のある県の国営三自教会で十戒が習近平主席の言葉に差し替えられた件であった。ルイッセン議員はこの件をBitter Winterで知ったと述べていた。
討論会の議長を務め、様々な発言に対して意見を述べたショイドロヴァ議員。
オルガ・ロモヴァ教授は中国の権力構造を詳しく説明した。中国では、何もかもが政府機関に掌握され、そして、中国共産党の権力を強化するための道具となる。中国共産党は国の構造の中心として作用し、市民の生活のあらゆる面を完全に支配している。また、ロモヴァ教授は、宗教弾圧が行われる思想的な背景を説明し、中国の政権はいまだにマルクス・レーニン主義の枠組みに収まっていると指摘した。
ルイッセン議員と同じくプロテスタント派のキリスト教徒であるメルビン・トーマス氏は、2018年のバチカンと中国間の合意 に関する懸念を表明した。トーマス氏は、バチカンは中国共産党政権に譲歩し過ぎたと考えている。また、同氏は中国では、イスラム教、チベット仏教、伝統的な民俗宗教、そして、新興宗教団体 を含む全ての宗教が弾圧に晒されていると指摘した。トーマス氏は、新疆ウイグル自治区 の 「教育による改心」のための強制収容所 に勾留されている数百万人の ウイグル族、そして、殺害され、臓器を摘出されている 法輪功 の学習者の苦境について説明を行った。続いて、中国での宗教弾圧に対し、一辺倒ではなく、包括的な報道をメディアに求め、発表を締めくくった。
トーマス氏に続いて、私は、社会学者の楊鳳崗(ヤン・ファンガン)氏が提唱するカテゴリーを引用し、中国の宗教の「3つの市場」を説明した。楊氏は国が管理する団体が所属する「赤い市場」、事実上容認されている団体が所属する「灰色の市場」、そして、邪教 に指定されており、活動を禁止され、激しい弾圧に晒されている団体が属する「黒い市場」を区別している。現在、最も激しい弾圧を受けているのは、中国のキリスト教系新興宗教団体の中で最も規模が大きく、急成長している 全能神教会 である。1991年に設立されて以来、急激に信者を増やしている事実が、弾圧の主な理由である。
続いて、カトリック教会、そして、署名から1年が経過したバチカンと中国間の合意の影響に焦点を絞った。中国共産党が神を不倶戴天の敵と見なしているという考えに基づき、私は合意の重要制度と曖昧さについて簡単に説明した。2019年のバチカンによるガイドライン は、この曖昧さを解消することを目指すものであり(部分的に成功)、中国共産党の主張とは異なり、バチカンは全てのカトリック教徒に対して国が管理する 中国天主教愛国会 への参加を強制しておらず、また、良心に従って参加を見送った信者に敬意を払うことを求めていた。私は弊誌のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)編集長の意見を紹介しし、この複雑な問題における最も危険な見解は、バチカンと親しい間柄にあり、合意を支持する特にイタリア国内のカトリックの知識人が持つ見解だと指摘した。このような知識人は、人権 に対する「欧米」の考え方は、中国の文化とは異質であり、中国共産党に押しつけることはできないと主張している。
アンナ・ヒル氏は、全ての宗教の「中国化」に対する中国政府の取り組みに焦点を当てていた。「中国化」は宗教を含む社会のあらゆる面の「共産主義化」を意味する、とヒル氏は指摘した。続いて同氏は現実的なアプローチを求めた。同氏は、全ての二国間及びEUを含む多国間の協議において、人権及び 信教の自由 の侵害の責任を中国に求めるべきだと指摘した。さらに、EUは中国に対し公式に、中国共産党が皮肉交じりに「職業訓練施設」と呼ぶ新疆の施設を含め、第三者の専門家の同国の訪問を許可するよう要請するべきだと提案した。
専門家会議「Ecclesia Catholica in China」の後半では、チェコのアレクサンドル・ヴォンドラ(Alexandr Vondra)欧州議会議員(欧州保守改革グループ)と英国のフィル・ベニオン(Phil Bennion)欧州議会議員(リニュー・ヨーロッパ・グループ(Renew Europe Group))、台湾のEU大使である曾厚仁(ハリー・ツェン)博士、そして、ドイツのフランク・シュバルバ-ホス(Frank Schwalba-Hoth)元欧州議会議員(緑の党)を含む聴衆による質疑応答が行われた。中国での全ての信仰の弾圧全体に関して、ツェン氏、そして、世界ウイグル会議のドルクン・イサ(Dolkun Isa)理事が重要な発言を行っていた。イサ理事は過去の辛い経験を伝え、また、いつものようにBitter Winterへの愛着を語った。
シュバルバ-ホス元欧州議会議員の提案は秀逸であった。同氏は、弾圧への注目を集めるため、犠牲者を追悼する記念碑を建てる、あるいは、中国での信教の自由にちなんだ名称を公共の場に与える等、象徴を具体化する適切な取り組みを求めていた。会議の最後に、主催者の2名の欧州議会議員が、別のグループ間の取り組みを介して、中国での宗教弾圧に今後も注目していくと発表した。
今回の専門家会議は、現在の中国の宗教弾圧に対処する上で、単一の教会や団体の苦境に絞る方針が得策ではないことを証明した。当然ながら、特定の団体に対して特有の弾圧が行われていることも事実である。しかし、大局的な視点も重要だ。専門者会議でカトリックに焦点を絞った点を踏まえ、ローマ法王フランシスコが提唱する「血によるエキュメニズム」を喚起する施策は功を奏する可能性がある。ローマ法王は、神学理論において異論はあっても、弾圧により異なる宗教の信者が団結し、共に抗議することができると指摘した。この「血によるエキュメニズム」の現実的な例が中国である。